電源トランスとは
電源トランス(Power Transformer)は、商用電源(AC100V)を機器内部で使用する各電圧(例:DC5V、DC12V、DC24V)へ変換するための電磁誘導装置である。遊技機では、メイン基板や役物駆動系、LED制御など複数の回路に安定した電力を供給する中核コンポーネントとして機能している。
構造と原理
電源トランスは主に以下の要素で構成される:
- 一次巻線(入力側:AC100V)
- 二次巻線(出力側:DC回路供給用)
- 鉄心コア(EI型・トロイダル型)
- 絶縁材・ケースハウジング
一次・二次巻線間で電磁誘導が生じ、電圧が変換される。巻線比によって出力電圧が決定され、各基板や制御回路に必要な電圧を供給する。
種類と用途
遊技機に採用されるトランスは主に次のタイプに分類される:
- EIコア型: 低コスト・高信頼性。メイン電源に多用される。
- トロイダル型: 小型・低ノイズ。制御基板用や音響用に採用。
- スイッチングトランス: スイッチング電源回路内で高効率変換を実現。
一般的なパチンコ機では、一次側AC100V → 二次側AC24V/AC12V → 整流回路 → DC出力の流れで構成される。
絶縁と安全設計
電源トランスは高電圧を扱うため、絶縁構造が最重要である。巻線間にはポリエステルフィルムやエナメル絶縁層が挟まれ、耐電圧は1500V以上に設計されている。また、熱ヒューズを内蔵し、過熱時には自動遮断して発煙・発火を防止する。
樹脂モールドタイプでは防塵・防湿性にも優れ、長期稼働時の信頼性が高い。
電磁ノイズ対策
電源トランスは磁束漏れや高周波ノイズを発生するため、筐体設計時に電装基板から一定距離を取る。また、シールドケースやフェライトコアを併用してノイズを低減する。特に液晶パネルやサウンド回路に近接する場合は、トランス周囲の磁気遮蔽が不可欠である。
発熱と冷却
トランスは変換効率90〜95%程度であり、残りは損失として熱になる。そのため、放熱スリットを備えた金属ケースや通気構造で熱を逃がす設計が施されている。温度上昇試験では最大75℃以下を設計基準としている。
整備・点検項目
電源トランスの整備では、以下の項目を重点的に確認する:
- 出力電圧の安定性(負荷時・無負荷時の変動測定)
- 異音(うなり音・振動)
- 外装の変色・焦げ跡
- 絶縁抵抗値(メガー試験で100MΩ以上)
異常がある場合は内部巻線の短絡や絶縁劣化が疑われ、修理ではなく交換が推奨される。
リユース機における注意点
中古機整備では、経年による鉄心錆び・コイル絶縁劣化が起きやすい。特に湿気環境で保管された機体では絶縁低下が顕著であり、漏電や異常発熱の原因となる。再整備時は絶縁抵抗試験と出力確認を必ず実施する。
次世代電源トランス技術
最新の遊技機では、従来のトランスに代わりPFC(力率改善)回路を備えたスイッチング電源が主流化している。これにより小型・軽量・高効率化が進み、発熱・ノイズともに大幅に低減されている。将来的にはGaN(窒化ガリウム)FETを用いた高周波電源への移行が見込まれている。
まとめ
電源トランスは、パチンコ機の全系統電装を支える“心臓部”である。安定した電力供給と高い安全性を維持するためには、定期的な電圧測定と絶縁点検が欠かせない。整備品質が、最終的な遊技機の信頼性を左右する要素である。
関連サイト:スリーピース技術ガイド
電源トランスや整流回路・ノイズ対策の詳細は、グループサイト
スリーピースドットネット(ppps.jp)
の電装・制御基板技術ガイドで詳しく紹介しています。