TY値とは何か|技術・構造白書

TY値とは

TY値(Total Yield Value)とは、パチンコ機やパチスロ機における「大当たり1回あたりの平均出玉」を示す指標である。
Total(総合)とYield(出玉量)の略称であり、機種設計・検定審査・市場運用において、出玉性能を定量的に評価するための基礎データとして用いられる。

一般に「平均出玉」「理論値」「ベース性能」などと混同されるが、TY値は統一された算出式によって定義される公式指標である。

定義と算出式

TY値は次の式で算出される:

TY = (大当たり時の平均払い出し玉数) × (特賞確率) ÷ (1回転あたりの入賞確率)

あるいは、より一般的には以下のように表現される:

TY = Σ(当選種別ごとの平均出玉 × 発生確率)

つまり、特賞・通常・確変・小当たりなどすべての抽選結果を加重平均した“期待出玉”の値である。

TY値の単位と基準

TY値は通常「個/特賞」または「個/回転」の単位で表される。
検定書類やホールデータ上では、次のように区分される:

  • 通常機種: 約3,000〜4,500個/大当たり
  • ライトミドル: 約1,500〜2,500個/大当たり
  • 甘デジ: 約800〜1,200個/大当たり

この値が機種の「平均出玉感覚」を決定づける。

検定における扱い

保通協(型式試験)では、TY値は「設計時点での理論上の平均出玉」として使用される。
具体的には以下の確認項目が存在する:

  • 設定された抽選確率とラウンド構成から算出されたTY値が規格内であること。
  • 実機試験での出玉分布が理論TY値±5%以内で収束すること。
  • 仕様変更後もTY値が変動していないこと(ROM検査で確認)。

このため、TY値は「出玉性能の指標」であると同時に「検定安定性の証明値」でもある。

ホール運用におけるTY値

実際のホール営業では、台データ機が「実測TY値(実績値)」を算出している。
これは以下の式で求められる:

実測TY = 総払い出し数 ÷ 大当たり回数

理論値と実測値の乖離は、主にスタート回転数・電サポ効率・遊技条件の違いによるもので、
ホール運営者はこれを分析して出玉調整や釘管理の参考とする。

抽選制御との関係

メイン制御ROM内では、各種抽選テーブルが間接的にTY値を構成している。
特に、特図制御とラウンド振り分け比率がTY値を決定する要素である。

例えば、以下のような設計がある:

  • 10R(出玉約1,300個)…30%
  • 4R(出玉約520個)…40%
  • 2R(出玉約260個)…30%

これらを合算した平均出玉が、1回の大当たりにおける理論TYとなる。

解析例:ライトミドル機

確率1/199、平均ラウンド6R、出玉1Rあたり130個の場合:

TY = 6 × 130 = 780個/特賞

もし時短・確変による継続率が70%であれば、期待出玉は:

期待TY = 780 ÷ (1 - 0.70) = 約2,600個

このように、継続率を含めた統計的評価によって、実質的なTY値が決まる。

TY値とベース設計の関係

TY値は、機械の「出玉感」や「初当たりの重さ」を設計する基礎値である。
開発段階では、ベース(スタートあたりの払い出し率)と併せて次のように設計される:

  • 高TY:出玉感重視、変動時間長、確率低
  • 低TY:軽当たり型、遊技テンポ重視

このバランス調整が、ゲーム性やユーザー体験に直結する。

再整備・データ検証の重要性

中古機再整備時には、ROM内のラウンド構成・賞球設定が設計TYと一致しているかを検証する。
変更や誤設定がある場合、理論出玉が変化し検定外扱いとなるため注意が必要である。

次世代動向

近年では、AIシミュレーションにより数千万試行の抽選結果から理論TYを自動算出し、
さらに確率分布・標準偏差を含む「分散TY解析」が導入されている。
これにより、短期・中期・長期での出玉安定性を定量的に評価する手法が確立されつつある。

まとめ

TY値は、遊技機の出玉性能を数値化する中心的な指標であり、
設計・検定・運用のすべてに関わる「共通言語」である。
理論値と実測値の両面を管理することが、安定した遊技バランスと健全営業の基礎となる。

監修:野口智行(有限会社グローバルスタンダード)
この記事は「技術・構造白書」シリーズの一部として、遊技プログラム・ソフトウェア領域における出玉統計技術を専門的に整理したものです。