検定ROM差分とは何か|技術・構造白書

検定ROM差分とは

検定ROM差分(Certification ROM Difference)とは、同一機種の遊技機において、
保安通信協会(保通協)などの検定を経て承認されたROMデータ間の違い(差分)を指す。
この差分は、バグ修正や演出微調整などの目的で発生するが、
出玉性能や遊技バランスを変更しない範囲に限定される。

検定ROMの基本構成

遊技機のROMは、主に以下の領域で構成されている:

ROM名内容
メイン制御ROM抽選・状態遷移・入賞制御
サブ制御ROM演出・液晶・音声データ
払出制御ROM出玉カウント・I/O制御
通信ROMホールコンピュータ通信

これらのROMはすべて検定機関でCRC値を登録し、改変防止のために物理的に封印される。

差分の発生要因

検定ROMの差分が生じる主な要因は次の通りである:

  • バグ修正: 表示異常・演出停止などの軽微な不具合修正。
  • 演出同期調整: メインとサブ間のタイミング補正。
  • 通信仕様変更: ホールコンピュータや出玉記録装置との整合性確保。
  • 製造ライン最適化: EEPROM初期値やRAMクリア手順の調整。

出玉率・抽選確率・役構成など、検定上の基準値に関わる変更は一切認められない。

差分の技術的分類

検定ROMの差分は、技術的に以下の3分類に整理できる:

  1. バイナリ差分型: 一部コードまたはデータの書き換え(例:アドレス範囲0x1A00〜0x1B00)。
  2. リビルド差分型: コンパイル再構成により生成コードが一部異なる。
  3. データ差分型: 演出テーブル・音声・グラフィックの変更のみ。

これらはROMダンプ解析により、CRC値やハッシュ比較で特定される。

検定申請と差分認可

ROMの差し替えには再検定または軽微変更届出が必要である。
主な手順:

  1. 変更内容の技術文書(差分リスト)を作成。
  2. 再検定または軽微変更扱いで申請。
  3. 動作検証試験・CRC登録。
  4. 保通協による承認。

承認後、変更ROMには新しい識別ラベル(例:Ver.1.01 → Ver.1.02)が貼付される。

差分検出手法

整備現場では、検定ROMの一致を確認するため以下の方法が用いられる:

  • CRC32チェック(公式ハッシュ値照合)
  • バイナリ比較ツール(fc /b, diff, binwalk等)
  • ハードウェアROMリーダによる生データ抽出

一致しない場合は、非正規ROMまたは改造の可能性があるため、検査報告書に記載される。

検定ROM差分のリスク

認可外の差分(非検定ROM)は法的リスクを伴う。
主な問題点:

  • 風営法違反(構造・性能の変更)
  • 遊技結果の不公平化
  • 通信プロトコル不一致による誤作動
  • 保守点検時の不一致による動作停止

そのため、ROMのハッシュ管理とトレーサビリティが極めて重要である。

整備・保守時の対応

中古整備では、ROMが検定登録バージョンと一致しているかを確認することが必須。
確認手順:

  1. 基板からROMを抜き出しROMリーダでCRC取得。
  2. メーカー提供の認証リストと照合。
  3. 異なる場合は正式なROMに交換。

また、メイン・サブの組合せバージョンが異なると通信不整合を起こすため、
同一リビジョンのペアを維持する必要がある。

次世代の検定管理

現在では、ROM検定に代わってフラッシュメモリの電子署名方式が導入されつつある。
署名鍵(Digital Signature)により、内容改変の有無を自動判定する仕組みが採用されており、
検定ROM差分をデジタル的に識別可能なシステムへと進化している。

まとめ

検定ROM差分は、遊技機ソフトウェアの品質と法令遵守を保証する重要な概念である。
その正確な管理は、検定制度の信頼性と整備業務の安全性を支えている。

監修:野口智行(有限会社グローバルスタンダード)
この記事は「技術・構造白書」シリーズの一部として、遊技プログラム・ソフトウェア領域における検定ROM差分の技術的管理を専門的に整理したものです。