保留メモリとは何か|技術・構造白書

保留メモリとは

保留メモリ(Hold Memory)とは、パチンコ機においてスタートチャッカーに入賞した球の抽選結果を一時的に記憶する領域のことを指す。いわば「抽選待ちリスト」であり、機械の演出進行と抽選処理をスムーズに同期させるための緩衝構造である。

一般的な機種では最大4個の保留を持ち、それぞれのメモリスロットが抽選番号・乱数値・当選フラグなどのデータを保持する。

構造とデータ内容

保留メモリはメイン制御基板内のRAM上に確保され、1スロットごとに以下の情報が格納される:

  • 抽選ID(スタート順の通番)
  • 乱数値(RNGから取得)
  • 当選判定結果(ハズレ/リーチ/大当たり)
  • 演出コード(液晶制御連携用)
  • 消化フラグ(抽選済/未抽選)

これにより、スタートチャッカーの入賞数と液晶演出の進行を同期させることができる。

動作原理

保留メモリの制御シーケンスは以下のように構成される:

① スタートチャッカー入賞 → 抽選要求信号を発行  ② RNGから乱数値を取得し、メモリに記録  ③ メモリスロット数をカウント(最大4)  ④ 液晶制御基板へ演出トリガーを送信  ⑤ 消化完了後、スロットを解放

これにより、同時に複数の抽選を保持しながら順次演出を進行させることができる。

メモリ管理とFIFO構造

保留メモリはFIFO(First In, First Out)方式で制御される。つまり、最初に入賞したデータが最初に抽選処理される。これにより、入賞順と抽選順が一致し、遊技上の公平性が確保される。

メモリが満杯の状態(4保留)では、それ以上の入賞は抽選対象外(無効入賞)となり、制御上はカウントされない。

エラー対策と異常処理

RAMの読み書きエラーやデータ破損に備え、以下の保護機構が実装されている:

  • CRCチェックによるメモリ整合確認
  • ウォッチドッグタイマによる制御監視
  • RAMバックアップ保持(バッテリまたはスーパーキャパシタ)
  • 異常時のフェイルセーフ処理(保留消去+再初期化)

これにより、瞬断やノイズによるデータ欠損を最小限に抑えている。

演出制御との連携

保留メモリは単なる抽選データの一時保管ではなく、演出制御基板との密接な連携によって動作する。液晶演出のリーチ・先読み・変動タイミングは、この保留データを参照して動的に決定される。

そのため、液晶の動作遅延や再起動後の演出再開なども、保留メモリの状態保持により整合が取れるようになっている。

検定基準と制御上の制約

保通協の型式試験では、保留メモリ制御も厳格にチェックされる。特に次の項目が重要視される:

  • 最大保留数を超える抽選を行わないこと
  • 抽選順と入賞順が一致していること
  • 異常時に当選結果が変動しないこと

これらの制約を破ると「不正制御」とみなされ、検定不合格となる。

整備・点検の要点

保留関連の不具合(点滅ランプ異常・保留が溜まらない・変動が停止するなど)は、以下の原因が多い:

  • スタートチャッカー信号の断線または接点不良
  • メインRAMの接触不良・酸化
  • RNG(乱数発生回路)の動作不良
  • 制御プログラムの誤動作(再起動で復帰する場合あり)

メモリの初期化やバックアップ電源の点検を定期的に実施することが推奨される。

リユース・再整備時の注意

中古機では、バックアップ電池の電圧低下によって保留メモリ保持が不安定になることがある。電圧が2.5Vを下回る場合は即交換が必要である。さらに、静電気によるRAM破損を防ぐため、作業時には必ずアースバンドを使用する。

次世代設計動向

新型機では、保留データを揮発性RAMではなくFRAM(強誘電体メモリ)やEEPROMに一時保存する構造も登場している。これにより、停電・リセット後でも保留状態を復元可能とし、演出再開の整合性が向上している。

まとめ

保留メモリは、抽選処理と演出制御の橋渡しを担う中核メモリである。FIFO構造とデータ保護機能により、公平性と安定性が維持されている。RAM電圧・通信状態・乱数生成の健全性を定期的に確認することが、長期稼働の鍵である。

監修:野口智行(有限会社グローバルスタンダード)
この記事は「技術・構造白書」シリーズの一部として、遊技プログラム・ソフトウェア領域における保留制御技術を専門的に整理したものです。