💎【遊技文化白書 第四章】第二次機械革命 ─ ハンドル式がもたらした“完全電動化と大衆化”の時代

1960年代、パチンコは「手の技」から「電気の知」へ──。
本章では、ハンドル式電動機構の登場がもたらした“完全電動化”と“大衆化”の波を、技術・社会・文化の三側面から分析する。

Ⅰ．手打ちの終焉と「第二次機械革命」の勃発

1.1 手打ち式の構造的限界と職人芸の終焉

1950年代まで主流だった手打ち式は、遊技者がバネ直結レバーを人力で操作する純機械式構造だった。
その繊細な「手さばき」は美学であり、熟練者の象徴だったが、発射角や初速のばらつきは避けられず、
遊技効率・公平性・経営管理の三点で構造的な限界を抱えていた。

「上手な人ほど回る」という現象は魅力でもあり、産業化においては再現性を欠く不安定要素でもあった。
この課題に対し、1960年代初頭に現れたのが「回転ハンドル＋電動モーター」による電動化である。

1.2 ハンドル式電動機構の技術的ブレークスルー

ハンドル式は、小型のDCモーター（直流モーター）を内蔵し、ハンドル角度に応じて電流を制御。
出力の微調整が可能になり、打ち出しの初速と角度分散（σ）を劇的に縮小した。

これはパチンコ史における「第二次機械革命」であり、遊技機が「人の手」から「電力制御システム」へと完全移行した瞬間であった。

一方で、熟練の打ち師たちは「感覚の芸がシステムの知に取って代わられた」喪失感を覚えたとも記録されている。

Ⅱ．完全電動化が導いた効率・公平性・産業の進化

2.1 効率革命と遊技の標準化

電動化により発射速度と角度が安定し、遊技効率は従来比で約1.8〜2倍に向上。
釘調整やスタート開放率といった運用指標も標準化され、ホールは時間あたりの生産性を大きく向上させた。

技能の差ではなく、機械の制御で効率を担保する時代──それが「再現性ある遊技」確立の始まりである。

2.2 チューリップ機構との相乗効果

同時期に登場したチューリップ（連動式入賞装置）は、電動ハンドルの安定射出を前提とする精密遊技を可能にした。
電動の安定供給 × 役物の複雑性という設計が、戦略性と体験の「厚み」を生んだ。

ここに、手の感覚を超えて「システムを攻略する知的遊技」の概念が誕生する。

2.3 部品産業化と技術基盤の強化

電動化は、小型モーターやギアクラッチ、制御ユニットなどの部品を国産化・標準化させた。
この分業構造はエレクトロニクス産業と結びつき、のちのLSI・デジタル制御時代への技術連鎖を形成した。

パチンコは単なる遊技機から、精密工業製品へと進化したのである。

Ⅲ．社会構造と共鳴した「電化の時代」

3.1 「三種の神器」とハンドルの心理的受容

高度経済成長期、日本はテレビ・洗濯機・冷蔵庫の「三種の神器」に象徴される電化社会へ突入していた。
ハンドルを握る行為は、単なる操作ではなく「自分も近代を操っている」という時代意識を庶民に与えた。

炊飯器が時間を生み、冷蔵庫が保存を生んだように、ハンドルは遊技に安定と効率をもたらした。

3.2 公平性の実現と大衆化

腕力や技能が不要となり、遊技の公平性が劇的に向上。
女性・高齢者・初心者が自然にホールへ入り、パチンコはジェンダーを越えた国民的娯楽へ変貌した。

公平性は倫理であり、同時に経済的合理性でもあった。
この参加人口の拡大こそ、パチンコ産業を真に大衆化へ導いた要因である。

Ⅳ．制度化・運用・健全化

1948年施行の旧風俗営業取締法は、電動化を「遊技再現性の向上＝管理容易化」として容認した。
結果として、技術革新が行政監督の精緻化を促し、制度を安定へと導いた。

技術が規制を空洞化させるのではなく、制度を補強した──これが日本型パチンコ産業の特徴である。

Ⅴ．「握る」の文化人類学 ─ 労働から操作へ

ハンドル式は、上下運動の「打つ」から回転操作の「握る」へと身体動作を変えた。
それは「労働的遊戯」から「体験的娯楽」への転換であり、人が機械を通じて拡張される
ヒューマン・マシン・インターフェースの確立を意味する。

この“握る”という動作が、ボタン・タッチ・オートプレイへ続く遊技UI進化の原点となった。

Ⅵ．結論：第二次機械革命の遺産

ハンドル式による完全電動化は、効率・公平性・大衆性を同時に実現し、パチンコを
「感覚の競技」から「システムの遊技」へと確立させた。

この革命は、産業を「部品の言語」で、文化を「身体の言語」で発展させた──。
それは現代まで続く「誰もが平等に楽しめる機械娯楽」という理念の出発点である。

🧾 参考文献・資料（統合）

• 『パチンコ産業史資料集』：電動化と投入密度推計の基礎データ。
• 『日本遊技機工業史』：ハンドル式・チューリップ開発に関する記録。
• 旧風俗営業取締法（1948年）：制度運用の枠組み。
• 『戦後日本の技術変遷と娯楽産業』（科学史研究会）：部品産業化の連鎖分析。
• 『パチンコの社会史』：女性・初心者層参入データ。