払出試験モードとは何か|技術・構造白書

払出試験モードとは

払出試験モード(Payout Test Mode)とは、遊技機の賞球装置・ホッパー・制御基板間通信を点検するための内部検査機能である。
通常遊技を行わずに、一定枚数・一定回数の賞球動作を擬似的に出力し、メカ的・電気的整合を確認する目的で設けられている。

目的と意義

このモードの主な目的は以下の通り:

  • 払出モーター・ソレノイドの駆動確認
  • 賞球カウントセンサーの応答検査
  • 通信断・ジャム検知ラインの動作点検
  • 基板交換後の出玉系統整合試験

製造ライン・整備現場ともに必須の検査工程であり、出玉異常や賞球過不足の発生を未然に防止する。

動作原理

払出試験モードはメイン制御ROMのテストセクションに格納された特別ルーチンによって起動する。
基板上のディップスイッチ、もしくはサービスボタン長押し操作によりモードに遷移し、
内部通信バス(I/O BUS)経由で以下の信号が送出される:

  • 払出リクエスト信号(OUT_REQ)
  • 賞球数設定信号(PRIZE_COUNT)
  • 払出完了フィードバック(OUT_DONE)

これらの信号はホッパー制御基板で受信され、モーター駆動回数とセンサー検出数を一致させることで正常動作を確認する。

起動条件と操作手順

一般的な払出試験モードの起動手順は次の通り:

  1. 電源OFF状態でDIPスイッチを「TEST」に設定。
  2. 電源ON後、表示器に「PAYOUT TEST」または「OUT CHECK」と表示。
  3. スタートボタン・ベットボタンなどの操作で払出回数を指定。
  4. 決定操作によりモーター駆動が開始し、設定枚数を吐出。
  5. 完了後、表示部に「OK」または「ERR」が点灯。

動作途中で異常を検知した場合は、エラーコードが出力され、
その内容(例:E-21=センサー断線/E-35=モーター過負荷)により整備者が原因を特定する。

構成要素と信号経路

構成要素役割
ホッパーモーターメダルや玉を機械的に排出する駆動源
払出センサー賞球通過を光学検知しカウント信号を送信
払出制御基板メイン基板からのOUT_REQ信号を受け、モーターを制御
メイン基板出玉数とセンサー応答を監視し、異常時にERRを返送

検査項目と判定基準

払出試験モードで検査される代表的な項目は次の通り:

  • センサー応答時間: 20ms以内で応答すること。
  • 吐出誤差: 設定枚数に対して±1枚以内。
  • 過電流判定: モーター駆動電流が規定値(例:1.8A)を超えないこと。
  • 通信応答: OUT_DONE信号が1秒以内に戻ること。

これらの条件をすべて満たした場合に「OK」判定となり、出荷または整備完了とみなされる。

安全および注意事項

払出試験モードの実行時は、以下の安全上の注意を守る必要がある:

  • ホッパー内部に異物がないことを確認。
  • 開扉状態では手や工具を入れない。
  • 電源系統のアースを確実に接続。
  • モーター通電時間が長すぎると発熱・損傷の恐れがあるため、連続試験を避ける。

エラー処理とログ管理

最新機種では、払出試験モードの結果がEEPROMに自動記録され、
整備履歴として参照可能である。記録内容には以下の情報が含まれる:

  • 実行日時
  • 設定枚数
  • センサー応答数
  • エラーコード

これにより、整備・検査履歴をデジタルで一元管理できるようになっている。

自動検査システムとの連携

近年では、製造ラインにおいて払出試験モードをPLC(Programmable Logic Controller)と連携させ、
自動的に複数の基板を連続試験するシステムが採用されている。
異常値は自動でログ化され、不良基板はマーキング工程へ自動振り分けされる。

まとめ

払出試験モードは、賞球系統の信頼性を担保するための基礎検査であり、
メイン・サブ基板間通信の健全性、センサー動作、モーター機構を包括的に確認する工程である。
定期的な試験実施は、ホール運用や中古再整備においても欠かせない品質保証の一部である。

監修:野口智行(有限会社グローバルスタンダード)
この記事は「技術・構造白書」シリーズの一部として、制御・検査系統領域における払出試験モード技術を専門的に整理したものです。