中古パチンコ・パチスロ市場は、一般社団法人日本遊技関連事業協会(日遊協)が発刊する「遊技業界データブック2025」などで設置台数やホール売上が体系的に整理され、成熟期を迎えています。
その一方で、1台あたりの販売価格の陰には、仕入れ値だけでは捉えきれない 「撤去・輸送・整備・保証・減価償却」 といった隠れたコストが複雑に積み重なっています。
本稿では、制度資料(中古遊技機流通健全化要綱)や業界団体の一次情報に即して、中古機1台が抱える 「真のコスト構造」 を徹底的に分解。“薄利多売”の厳しい実態とその背景に潜む、業者の生存戦略を明らかにします。
🔍 Part 1:1台の中古機が市場に出るまでの「回収・物流コスト」
ホールから撤去された遊技機を中古市場へ流すためには、まず厳格な 「回収・物流」 のフェーズがあり、ここで制度上の義務とコストが発生します。
制度上のコスト: 機歴(履歴)管理が義務づけられ、製造側も「型式の同一性」を担保しなければならないため、回収作業の煩雑さが増しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 撤去作業費 | 電源遮断・台取り外し・基板管理・枠搬出など。現場では数千円規模の費用が発生。 |
| 輸送費 | 燃料・人件費高騰により物流コストの15〜20%を占めるケースも。 |
| 保管・在庫管理 | 倉庫棚保管やシステム登録費用。リユース製品分野の物流費上昇の煽りを受ける。 |
これらを合計すると、1台あたり数千円〜1万円超の回収・物流コストが標準的に発生すると見られます。
🧰 Part 2:修理・整備コスト ― 要綱改正が要求する「信頼の代償」
中古機市場のプレイヤーにとって、信頼性担保のための整備は避けて通れません。特に近年は、製造業者・流通業者双方に対し、型式の同一性保持・特定部品管理・点検記録提出が厳しく義務づけられています。
| 作業項目 | 目的と内容 |
|---|---|
| 点検確認 | 外観・電源系・センサーなどをチェックし、整備確認書を作成(法的義務)。 |
| 基板検査 | メイン・サブ基板の動作確認、ROM照合。不正改造の防止。 |
| 清掃・整備 | 筐体・パネル・役物の洗浄、注油、調整で商品価値を維持。 |
| 部品交換 | ランプ・配線・ファンなどの交換(数千円規模)。 |
整備費用は1台あたり数千円〜1万円超が一般的で、保証付き販売では保証引当金を追加計上する必要があります。
💰 Part 3:減価償却と利益構造 ― “薄利多売”の現実
中古機を扱う業者の視点から見ると、1台あたりのコスト構成は以下のような 薄利多売モデル になります。
| 項目 | 割合(目安) | 内容 |
|---|---|---|
| 仕入原価 | 50〜55% | ホールからの買取+初期輸送費 |
| 整備・検査費 | 約15% | 要綱遵守の整備・確認書発行コスト |
| 倉庫・物流費 | 約10% | 倉庫料や代行出荷費用 |
| 販管費・人件費 | 10〜15% | 営業・事務・管理スタッフ費 |
| 保証・リスク費 | 約5% | 動作保証・クレーム対応の引当金 |
この構造のもと、純利益率は平均5〜8%程度。1台あたり数千円の利益しか残らないことも珍しくありません。
戦略的減価償却: 税務上、10万円未満の台は一括損金処理が可能な場合もありますが、陳腐化が早い中古機では在庫回転率の管理が利益確保の鍵です。
📊 Part 4:価格を左右する「タイミング」と「市場の波」
中古機の相場は、需給の波によって変動します。代表的なサイクルは以下の通りです。
| 時期 | 状況 | 価格変動 |
|---|---|---|
| 撤去直前期 | ホールが一斉放出し供給過多 | 価格下落(在庫圧縮) |
| 撤去直後期 | 再流通が本格化 | 一時的価格上昇(需要集中) |
| 市場安定期 | 性能・導入台数に基づき収束 | 平均取引価格に安定 |
この「市場の波」を読んで仕入れと再販のタイミングを最適化する力が、薄利構造を乗り越える鍵です。
🧭 Part 5:持続可能な中古市場 ― コスト「見える化」の時代
今後は、価格だけでなく 「コスト構成(原価+整備+保証)」 の透明化が業界の信頼を高める方向です。
- 業界団体では「確認証紙」による履歴証明に加え、価格構造の明示を販売指針として検討。
- 取引の透明性を高めることが、不当価格や不十分な整備を防ぎ、三者間(ホール・リユース業者・購入者)の信頼を高める次の一手となります。
🎯 結論:コスト構造の理解は「未来を設計する戦略」
中古台1台の裏側には、販売価格以上の多くのコストが積み上がっています。撤去・物流・整備・保証・減価償却――これらを読み解く力が、業者の信頼構築と市場の安定を支える “真の価値” です。
コスト構造を深く理解することは、単なる経理処理ではなく、遊技機の資産価値を正しく見極め、中古市場の未来を設計する「戦略そのもの」にほかなりません。
📚 出典・参考
- 一般社団法人日本遊技関連事業協会「遊技業界データブック2025」
- 全国遊技機商業協同組合連合会「中古遊技機流通健全化要綱」
- 日本遊技機工業組合/日本電動式遊技機工業協同組合 公開資料
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🧩 E-A-T情報
本記事は、有限会社グローバルスタンダード/スリーピース(創業22年超・累計販売台数5,000台以上)の実務知見および、日遊協・全商協・日工組などの公表資料をもとに構成しています。現場経験と統計資料を組み合わせ、実際の業界構造を正確に解説することを目的としています。
※本稿は風営法・中古機流通要綱の範囲内で情報を整理しており、特定企業・団体の利益誘導を目的とするものではありません。