偏心カムとは何か|技術・構造白書

偏心カムとは

偏心カム(Eccentric Cam)は、回転軸の中心からずらした軸心(偏心量)を持つカム形状で、
回転運動を往復運動・押し込み動作・段差動作などに変換する機械要素である。
パチンコ機・パチスロ機では、役物の可動制御・蓋開閉・リフトアップ構造など、限られたスペースで複雑な動作を実現するために利用される。

一見単純な円盤形状でありながら、偏心構造によって多彩な動きを作り出せる点が最大の特徴である。

構造と動作原理

偏心カムは、軸心が中心からrだけずれた円板であり、1回転ごとに接触部を上下・前後に変位させる。
接触子(フォロワー)に伝わる変位量は偏心量rに比例し、次式で表される:

変位 x = r × (1 - cosθ)

θはカムの回転角度であり、偏心量が大きいほど動作ストロークが大きくなる。
この特性を利用して、動きの始点・終点を滑らかに制御できる。

パチンコ機での主な用途

偏心カムは、以下のような用途に多く採用されている:

  • 役物リフトアップ機構(例:Vチャレンジ昇降台)
  • ドア開閉・フラップ開放機構
  • 打撃アームや可動ギアのストローク制御
  • 遊技盤内の段差調整(ガイドレール昇降)

これらは、ステップモーターやサーボモーターの出力軸に偏心カムを取り付け、
フォロワーとの接触で動きを伝達する方式が一般的である。

偏心量と動作ストローク

偏心量(r)の選定は設計上の重要パラメータであり、動作ストロークSはおおよそ次式で表される:

S ≒ 2r

例えば、偏心量1.5mmならストロークは約3mmとなる。
パチンコ機の可動役物では、ストローク1〜4mm程度の微動域で精密制御が求められる。

また、フォロワー形状をローラー式にすることで摩耗を軽減し、動作抵抗を低減できる。

材質と製造方法

偏心カムは以下のような材質で作られる:

  • スチール(焼入れ処理・耐摩耗性高)
  • 真鍮(滑らかな摺動性)
  • POM/ナイロン(低コスト・軽量化)

高精度が必要な部分はCNC旋盤やワイヤーカットで製造され、
偏心量の誤差は±0.02mm以内に抑えられている。
フォロワー接触面には、グリスリブ加工が施される場合もある。

駆動制御とセンサー検出

偏心カムの回転位置を正確に制御するため、モーター軸にはエンコーダが装着される。
これにより、特定角度での押し込み量を制御できる。
また、カム接触面にリミットスイッチやホールセンサーを配置し、動作範囲を監視する構成も一般的である。

整備と潤滑管理

偏心カムは常に摺動運動を伴うため、潤滑が不可欠である。
整備時の基本手順:

  1. フォロワーと接触面を清掃(ダスト・旧グリス除去)
  2. 新しいグリスを薄く塗布(リチウム系またはフッ素系)
  3. モーターを手動回転させ、全域で抵抗が一定か確認

摩耗や段付きが発生している場合は交換が必要。
偏心軸が変形しているとフォロワーが外れ、異音や破損の原因となる。

リユース・再整備時の注意

中古整備時には、カムの偏心中心がずれていることが多く、ストロークが不足する場合がある。
摩耗の進んだカムは再研磨ではなく交換が基本である。
また、フォロワー部品(特に樹脂製)は劣化による割れが発生しやすく、必ず点検対象とする。

新世代構造と進化

最新の遊技機では、偏心カムをデジタル制御で模倣する「電子カム制御(ECAM)」が採用され始めている。
これはサーボモーターと位置制御ソフトウェアを組み合わせ、物理カムを電子的に再現する技術である。
これにより、動作パターンの切り替えやストローク調整をソフトウェア側で行えるようになった。

まとめ

偏心カムは、限られた空間で複雑な動作を生み出す小型メカニズムであり、
演出・動作精度・耐久性を左右する重要要素である。
定期的な潤滑と回転精度の維持が、安定稼働の鍵となる。

監修:野口智行(有限会社グローバルスタンダード)
この記事は「技術・構造白書」シリーズの一部として、役物・筐体構造領域における偏心カム制御技術を専門的に整理したものです。