――「手で打つ身体文化」はいかにして「観る感情文化」へと変貌したか――
1. 序章:機械と人との対話 ― “打つ”という身体文化
手打ち式パチンコの時代、打ち手は玉一発ごとに指先の感覚を頼りに操作し、釘の角度や盤面の癖を読み取った。
この「打つ」という行為は、単なる遊技ではなく、身体を通じて機械と“対話”する文化であった。
だが、やがてこの身体的な遊戯文化に転換点が訪れる。
2. ハンドル式(電動ハンドル)への転換 ― 効率化と大衆化の波
1973年ごろに「電動式ぱちんこ」が正式に認可され、1970年代後半にかけてハンドル式・電動モーター搭載機構が普及した。
この技術革新は「手打ち」という身体運動主体の遊技から、「ハンドルを回すだけ」「モーター制御で玉を打ち出す」構造へと変化していった。
| 年代 | 技術変化 | 文化的影響 |
|---|---|---|
| 1970年代前半 | 手打ち式 | 身体的・技術的遊技 |
| 1970年代後半 | 電動ハンドル式 | 効率化・大衆化の進行 |
| 1980年代 | 液晶・電子制御化 | 演出・視覚刺激中心へ |
この変化は、遊技の公平性・効率性を高め、初心者・女性・高齢者の参入を促す大衆化の波を後押しした。
一方で、熟練の打ち師からは「技術を奪われた」「身体の手応えが薄れた」との声もあった。
3. 「技」から「演出」へ ― 操作の快感から感情の快感へ
ハンドル式の浸透に伴い、遊技機の設計思想は変化した。
身体的操作によるリズムやテンポといった“技の快感”よりも、液晶・音・光による“演出の快感”が主軸となった。
視覚・聴覚を刺激する演出がプレイヤーを惹きつけ、
「どんな演出が出るか」「どんな光が走るか」が楽しみの中心となった。
打つ行為は“操作”から“鑑賞”へ――その意味が根本から変わっていった。

4. オート打ち・自動発射機構 ― 枠外化された“技の文化”の問い
1990年代には「自動発射機構」「固定具」「自動連射装置」に関する法的・文化的議論が増加した。
プレイヤーが自作した固定具の使用が問題視され、ホールでは「手打ちがルール」「固定具禁止」と警告が掲示された。
この時期に生じた問い――「どこまでが“打つ行為”か?」――は、遊技文化における人間の主体性を改めて照らし出した。
5. ホールの変貌 ― “競技場”から“劇場”へ
電動ハンドル化と自動発射機構の普及は、ホール空間の文化をも変えた。
かつて響いていた釘打ちのリズムが消え、代わりに電子音と液晶の光がホールを支配した。
プレイヤー同士の会話は減り、画面に集中する“観客的姿勢”が主流に。
ホールは“競技場”から“劇場(シアター)”へ――。
パチンコは「技を競う」場から、「物語を体験する」空間へと変貌した。
6. “手打ちの精神”の継承と再構成
電動化は便利さをもたらしたが、「自分の手で当てた」という誇りを奪った。
しかし、現代の“技術介入機”や“設定推測型スロット”の人気は、「自分の操作で結果を変えたい」という原初的な欲求の再燃を示している。
手打ち時代に象徴された「身体で機械と向き合う」精神は、形を変えて生き続けているのだ。
7. 結論 ― “打つ”という文化の記録と継承
パチンコの歴史は、単なる機械進化ではなく、人間が機械とどう関わるかを問う文化史である。
手打ちという身体文化は、大衆化・効率化・演出化の中で変容したが、
その過程こそが「人と機械の共演」が成熟していく証だった。
失われたものを記録し、意味を問い続けること――それが文化の成熟であり、次の革新を生む礎である。
「打つ」という行為は、物理操作を超えた人間の意志の表現である。
出典・参考:日本遊技機工業組合資料(1973年 電動式認可)、各種業界誌1970〜1990年代号、Pachirinko.com 歴史資料 ほか。
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