スルーとは何か|技術・構造白書

スルーとは

スルー(Through Gate)は、パチンコ機の特図抽選を開始するために設けられた通過経路であり、遊技球が通り抜けることで特図変動を開始させる仕組みを持つ。一般的にはスタートチャッカーとは別系統の抽選系統(特図2など)を作動させるための装置で、現代のデジパチ機種では欠かせない構造要素である。

構造と配置

スルーは、盤面中段または右側に位置し、金属ガイドまたは樹脂パーツで形成された通過レーンを持つ。球が通過すると、内部のセンサー(主にフォトセンサー)が反応し、特図回路へ信号を送る。構造的には「入賞口」ではなく「通過口」であり、球は賞球を得ずにアウトへ抜ける。

導入レーンの角度はおよそ10〜15度、通過径は12mm前後で設計され、球速を一定に保ちつつ検知精度を高めるよう工夫されている。

検知方式と電子制御

スルー検知は非接触型フォトセンサー方式が主流で、赤外LEDと受光素子の間を球が遮ることで通過信号を生成する。サブ基板でデジタル化された信号は、メイン基板の特図制御回路へ送られ、抽選シーケンスを起動する。

信号は一球単位で処理され、重複検知を防ぐために一定のデバウンス時間(約30〜50ms)が設定されている。誤検知を防ぐため、受光感度や出力電圧は検査工程で個体ごとに調整される。

設計上の役割

スルーは、遊技バランスの中で「電チュー開放」や「時短抽選」など特定状態を制御するトリガーとなる。配置位置や通過率は遊技テンポに直結し、1回転あたりの抽選周期を安定させる設計上のキーポイントとなる。

特図制御では、スルー通過を検知したタイミングで内部タイマーをリセットし、抽選乱数を再取得する。これにより、遊技ごとに確率の独立性を維持できる。

物理設計と球流制御

スルーの設計では、球が確実に検知領域を通過するよう通路幅・傾斜・位置が調整される。特に球速が早すぎると検知漏れが発生するため、導入口付近には微細な減速フィンや摩擦リブが設けられる場合がある。出口部分はアウト口に接続され、球がスムーズに排出されるよう傾斜設計が最適化されている。

素材には静電気防止処理を施したポリカーボネートやアクリル樹脂が用いられ、球の通過安定性と透明度を両立している。

整備・点検・交換

長期稼働機では、スルー通路の汚れ・光軸ズレ・センサー劣化が主な不具合原因となる。整備時には、通路内部の清掃、センサー出力電圧の確認、感度再調整を行う。フォトセンサーの受光面が曇ると誤検知が発生するため、無水アルコールでの清掃が推奨される。

センサー反応が不安定な場合は、ユニットごと交換する。交換後はテストモードで通過信号を確認し、抽選シーケンスが正常に作動するか検証する。

進化と多様化

近年の機種では、スルー通過を演出に連動させる構造が増えている。通過時にLED発光やサウンド効果を追加し、プレイヤーに抽選進行を視覚的に伝えるものも多い。また、複数スルー構造(ダブルスルー)を採用する機種では、通過経路によって特図抽選のモードを切り替える設計も見られる。

まとめ

スルーは、パチンコ機の抽選システムを支える基礎構造であり、単なる通過口ではなく「電子制御の起点」として機能する。設計精度と検知信頼性が、遊技全体のテンポ・演出・公平性を左右する重要な技術要素である。

監修:野口智行(有限会社グローバルスタンダード)
この記事は「技術・構造白書」シリーズの一部として、役物・筐体構造領域におけるスルー構造と特図抽選制御を専門的に整理したものです。